「まま(飯)」を「借り」に行くほどおいしいことから、この名が付いたといわれる「ママカリ」は、岡山県民が愛してやまない瀬戸内海の小魚です。魚のことを知り尽くした漁師さんのおかみさんに、ママカリを使った料理を紹介してもらいました。調理の舞台は、瀬戸内海を背景にした青空の下。笑顔に満ちた青空キッチンの模様を、レポートでお伝えします。
岡山を代表する小魚・ママカリが主役。
漁師のおかみさんに
おいしい食べ方をうかがいました。
岡山県南部に位置する玉野市胸上地区は、中世から潮待ち、風待ちとして栄えた港町。岡山三川の旭川と吉井川がぶつかりあい、豊富な栄養分が海へと流れ込む瀬戸内屈指の好漁場。豊かな漁場を生かし、海苔の養殖や定置網漁といった漁業が盛んに行われています。そんな岡山有数の港町・胸上の家庭で作られる「漁師ごはん」を、魚を知り尽くした漁師のおかみさんに教えていただきました。
食材の主役は、岡山の郷土料理に欠かせないママカリ。小魚ゆえ下処理に手間がかかりますが、「ひと手間かけた分、ぼっけぇ(岡山弁で「とても」)おいしくなるけぇなぁ」と笑顔で話してくれた胸上漁協女性部部長の奥野ミエ子さん。郷土の味覚を散りばめた料理を披露してくれました。
調理の舞台は、晴れの国・岡山の青空の下。
漁師ごはん作りが始まります。
ママカリの旬は5~7月と10~12月の年2回(奥野ミエ子さん談)。取材に訪れたのは、まさに旬真っ只中の5月下旬。「晴れの国」と称される岡山の青空の下で、漁師ごはん作りが始まりました。
まずは、ママカリのウロコ取りから。取り出したのは、ペットボトルのふた。「ママカリは小魚じゃろぉ。包丁の背じゃと力を入れ過ぎて、身ごと剥がれてしまうけぇ。これなら、誰でも簡単にできるんよ」と丁寧に教えてくれながら、慣れた手つきでウロコをきれいに処理。料理に使いやすいよう三枚に降ろして、下準備の完成です。
「ママカリをこんがり焼いて酢に漬けるんが、岡山じゃ一般的な食べ方」と奥野さん。さらに「生のママカリをラッキョウ酢で炊くだけのラッキョウ酢煮も、簡単なのにいけるんよ」と調理をしながら、教えてくれました。
いずれの料理も、足が早いママカリを、長く、そしておいしくいただくための工夫が凝らされたものばかり。盛り付けを終えたママカリ料理が、徐々に食卓を彩ってゆきました。
バラ寿司あり、酢漬けあり。
ママカリ尽くしの料理が次々と。
刺身に、酢漬けに、握り寿司に。見た目も華やかなママカリ料理が、次々と食卓に並びます。「できたでぇ。はよぉ来られ来られ」の掛け声とおいしい香りに誘われて、調理を手伝ってくれた漁師のおかみさんたちが席に着きます。
まずは、鮮度が命の刺身から。「小骨の処理が大変じゃけど、それでも食べたくなるおいしさ」と奥野さん。足が早いママカリを、刺身でいただけるのは本場ならではの醍醐味です。
続いて、ラッキョウ酢で炊いたお手軽料理。頭からしっぽまで丸ごといただけるやわらかな食感、甘露煮のような上品な甘さは、ご飯のお供に最適な一皿でした。
漁師さんの家の定番料理「焼きママカリの酢漬け」もいただきます。香ばしいママカリの香りの後に酢の酸味が広がり、ご飯にもお酒にも合う一品に、「これが、ビールによぉ合うんよ」とママカリを提供くださった漁師さん。酢でしめたママカリを握った寿司も美味でした。
メインは、ママカリの酢漬けをのせた岡山ばら寿司を。岡山ばら寿司とは、江戸時代から続く岡山の郷土料理を代表するちらし寿司のことで、祝いの席に欠かせない郷土の味覚。とにかく具だくさんなのが胸上流で、ご飯の中にも、イカやタコ、シイタケなどがたっぷり。おいしさも食べごたえも格別。
ママカリ料理のフルコースに囲まれて、
取材協力:胸上漁協女性部